白い光

 


小学校3年の夏、
ひょんなことで鎖骨を骨折した私は
夏休みの大半を病院で過ごすことになった。

その病院に勤める父を持つ私は
小学生ながら贅沢にも個室に入院する事となった。
そこは古くからあった病院だったが
その年のはじめに改築したばかりで
病室はまだ新築の香りに満ちていた。

3階のその病室の窓からは
旧病院を解体した跡の更地と
1棟だけ取り残された古い木造の建物が見え
その向こうには広々とした田園が広がっていた。

入院という初めての経験で
最初の数日こそは寝付が悪かったが
昔から病院というものに親しんでいた私は
すぐに新しい環境にも慣れ
布団にはいると同時に夢の世界を彷徨い
朝まで目を覚ますことないようになった。

骨折の状態が思わしくなく入院は長引いていたものの
私はその生活をそれなりに楽しんでいた。

そうした或る夜、
私は夜中にふと目を覚ました。
別に何か気配を感じたわけでもなく
ごく自然に目を覚ました。

部屋の中は
むろん私以外には誰もいなかった。
辺りを見回したが何も変わったこともなく
私は再び眠りにつこうとした。
そのとき私は窓の外に見える白い光に気がついた。
『何の光だろう?』
そう思った私は窓際に近づいて外を覗いた。
その光は取り残された建物の窓から漏れていた。
『何だ倉庫の明かりか・・』
取り残された建物を倉庫だと考えていた私はそう思った。

『こんな夜中になんだろう・・・電気を消し忘れたのかな?』
そう思った瞬間その白い光の中に影が動くのが目に入った。
『なんだ、誰か物を取りに行ったんだ』
最初は白い光の中でチラチラと動く影しか見えなかったが
やがて
一人の人間の姿をはっきり見ることができた。
彼は古ぼけやや黄ばんだ白衣を着
手に何か光る物を持っていた。
しばらく見ていると
人影がもう一つ見えるのに気づいた。
彼女は壁に寄りかかるように立って
彼の動きをじっと目で追っていた。
その顔には表情は全くなくただ目だけが動いていた。
その間も
手に光る物を持った彼はこちらに背を向け
彼の腰の高さにある台の上でしきりに何かをやっていた。

そのとき私は不思議なことに気づいた。
部屋の中はぼんやりとした白い光で照らされていたが
部屋の中のどこにも影はなく
すべての物にまんべんなく光が当たっていたのだ。
『いったい何が光っているのだろう』
そう思った瞬間
その二人が体の向きはそのままで
こちらの方をじっと見ているのに気づいた。
そして次第にその白い光が薄くなって
やがて部屋の中は真っ暗になってしまった。

翌朝、私は検温に来た看護婦にその建物のことを何気なく尋ねた。
その建物は私が思っていたような倉庫ではなく
旧病院の手術棟であったらしい。
前身が陸軍病院であったそこは
不十分な設備の中でかなり危険なことも行われていたらしかった。

午後、私は散歩がてらにその建物に行ってみた。
何の変哲もない古ぼけた木造の建物だった。
その建物の周りには何もなく
そこに引き込まれた電線はおろか電柱すら立っていなかった。
そしてその周りを1周した私は
その建物には出入り口は一つしかなく
そこが古ぼけた釘で厳重に釘付けしてあったのを見ても
今さら驚かなかった。

そもそも、
部屋の中の二人の表情は
窓から覗き込まないと見えるはずもなく
100mも離れた病室の窓から
彼らが人影以上にはっきりと
見えるはずもなかったのだから。